ヒガシノメーコ記

ヒガシノメーコのエッセイや漫画。【毎週 月曜日(イラスト・漫画)】と【隔週 土曜日(エッセイ)】を更新。

『たかいみみ』を買った

わたしは普段から自宅で仕事をしているので、コロナウイルス感染拡大の影響で仕事様式が大きく変わった、という実感はさほどない。けれど、その中でも唯一”良くない変化”と言えるものがあった。

それは「音」に敏感になるようになってしまったことだ。

 

そもそも、昔から「音」は気になる方だった。物音や違和感のある音に気づくのも早い方だったと思う。誰かが机を叩く音、貧乏ゆすり、咀嚼音など、本人が無意識に出している音がすると集中力を削がれて苦痛だった。

もっと遡ると、わたしは子どものころ救急車の音を耳にすると「ピーポーだ!」と必ず反応を示したそうだ。ときには母が聞き取れないほど遠くで鳴る、救急車のサイレンに反応していたこともあるという。というのも、わたしは子どものころ出産間際の母のお腹の中で死にかけ、救急車に乗ったことがあるそうだ。そのとき嫌というほどサイレンの音を(母のお腹の中で)聞いていたため、わたしは小さい頃から救急車の音に反応し、ほかの音にも反応するようになってしまったのかもしれない。

 

そんな音に敏感なわたしだけど、人の話を聞く(音情報を聞き取る)のはすこぶる苦手だった。授業を受けると中身が全然頭に入ってこないし、人と会話すると聞き間違い、勘違い、内容をうまく理解できない、みたいなことがよく起った耳から入る情報の処理に時間がかかるらしいのだ。だから、早いテンポの会話や、主語のない会話などにはついていけないし、自然と生成される会話のニュアンスみたいなものもうまく理解できなかった。

だから、こうして文章にしてから会話をする方が楽だったし、むしろ文章を通してのコミュニケーションの方がうまくいった。しっかりと話す前は、今でも文章にまとめるようにしている。自分がそんな風な性質なのだと気づいたのは、ここ数年の話ではあるのだけど。

(なおライター業をはじめ、電話打ち合わせを重ねることで、以前よりは少しだけスムーズに会話を理解できるようになった)

 

―――話を戻して、わたしが「音」に敏感になってしまったという話だ。

マンションの一室で仕事をしているわたし。日々仕事をしていると周りの住民たちの生活リズムも分かってくる。当然、住民たちがちょっとうるさい時間帯なんかもある。ただわたしに生活があるように、彼らにも生活があるのだ。目をつぶらなければいけない場面もある。

しかし、コロナの影響で彼らも「自粛」「自宅待機」「在宅ワーク」を余儀なくされた。つまり住民たち…特に上階の住民の生活様式はガラリと変わってしまったらしい。その結果、目をつぶれなくなるくらい、わたしの部屋の天井からは日々”騒音”がするようになってしまったのだ。

 

はじめの半年くらいは、昼夜問わず騒音祭りだった。走り回る、飛び回るようなドスンドスンという音もして、そのたびに電気がビリビリと震えた。普段、無音または静かな音楽を流して仕事をしているわたし、この騒音が耳に入らないわけがない。とてもじゃないが自宅で作業できる状態ではなくなった。

ところが、残念なことにわたしは自宅以外で仕事ができない人間だった。カフェや図書館など、ほかの人間がいる・耳慣れぬ音が聞こえる場所では気が散ってしまうので、仕事場は自宅以外ありえなかった。

 

とうとう頭に来たわたしは、この騒音が「いつ頃からはじまったか」「毎日どの時間帯に音がするのか」「音の種類」「騒音による被害(仕事ができない/不眠等)」「上階の住民にどうして欲しいのか(対策の提案)」をまとめた書類を作成したうえで、大家と管理会社に相談した。

―――ぜんぜん相手にされなかった。(末代まで呪うことに決定)

 

懲りずに何度か大家・管理会社に相談した結果、騒音のする時間帯が徐々に絞られていったが、とはいえ相変わらず音に敏感なわたしを苦しめるのに変わりはなかった。なんというか、もうこの頃には音という音がいろいろダメになっていた。いや、自分が「音」がダメなのだと気づいてしまった、という方が近い。

上階は騒音だが隣人は夜中に突然自身のパートナーと会話をはじめ、大笑いをするような人々だった。日によっては昼間から大声で会話をしていることもある。わたしはこの「話し声」というのもまったくダメだった。そのときは毎年恒例、夏の不眠症の真っ最中も相まって、本当に気が狂いそうだった。

 

ただ、まったく対策を取らなったわけではない。自分なりに研究して、低音がよく出る音楽を流すと隣人の会話がうまくかき消されるのを発見したり、耳栓愛用者からオススメの耳栓を教えてもらい試したりした。そのうち、イヤホンで直接音楽を聴くことで、全体的な騒音がそこそこ緩和されると気づいた。また自分の耳にフィットする耳栓も発見した。そこで騒音状況に応じて音楽をイヤホンで聞く、または耳栓をするようになった。

けれど、音楽を聴き続けるのも、耳栓をし続けるのも、本当は疲れるのだ。できるなら、それらをせずに作業したり、昼寝をしたいものだ。だから、虫の居所が悪いときはこれらの対策が余計自分を疲れさせてしまい、すべてがダメになる日もあった。(そういうときに打つべき手は、散歩に行って気分転換したり、美味しいごはんをテイクアウトして機嫌を取ったりすることである…)

 

 

年が明け、国が再び緊急事態宣言を出した。極端に悪化することはなくても、隣人も上階の住民の騒音も相変わらずだった。そんな中、運悪く虫の居所が悪い日が来てしまう。わたしの精神は参りに参り、ああもうダメだと「Amazon | 本, ファッション, 家電から食品まで 」を開いたのである。そしてポチったのである。

―――これを。

 

Bose Sleepbuds II ノイズマスキング 睡眠用イヤープラグ/ ¥33,000】

www.amazon.co.jp

 

実はこれ、前からチェックしていたイヤープラグ。しかも2代目・改良版らしいのだ。スピーカーといえばBose、あのBose社が作った耳栓ならさぞかし良いんだろうなぁ…と思っていたのだけど、わたしにとってはすぐに手を出せる値段ではない。けれど、もう限界だった。近隣住民の立てる騒音のために高級耳栓を買うのは若干腹が立つが、自分の精神を守るために必要なのである。ポチッと購入決定ボタンを押した。少しだけ動悸がした。

 

 

………翌日きた。(天井に向かって高く拳を上げる)

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早速開けてみる。

「こ、これが3万越えの耳栓………」という感じ。ケースの表面はマットな素材で高級感がある。お外からやって来たこともあり、とってもひんやりしていた。


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スライド式に蓋が開くことに悲鳴を上げる。オ、オシャレ!!!!

 

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この下の5つのポチが充電残量を表している。そしてこのケースのお尻にケーブルを指すと、このケースに入れたままイヤープラグの充電ができる。

 

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また、このイヤープラグは専用アプリをインストールする必要がある。まず、耳栓に名前(6文字)が付けられるというので、『たかいみみ』と名付けた。これからよろしくな、たかいみみ。(なお、このアプリでアラームなんかも設定できるぞ!)


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ちなみにこの耳栓は、ノイズキャンセリングをするのではなく、”雑音を再生することで、周囲の音をマスキングする耳栓”なのだそうだ。だからアプリ内ではこんな風に、ノイズをマスキングする音が入っている。一晩中流すこともできれば、60分など時間を指定して再生停止することもできる。

このほか「風景」は日常の環境音などが、「静けさ」はやや音楽よりの音が入っている。中でも風景に入っている「Tumble Dry(ドラム缶乾燥機が動いている音)」なんかは面白いと思った。


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さて、わたしはこのたかいみみをフル充電すると、その日の夜、早速使用して寝てみることにした。

 

装着した感じは、けっこう……よい。

思ったよりも密閉間があり、普通の耳栓だと良い角度を見つけるのに少し苦戦するだけど、たかいみみはスムーズにシャットダウンしてくれるかんじ。特に音を流さなくても、普通の耳栓として快適に使えそうだなぁと思った。

(ちなみにアプリでバッテリーの様子なども分かるよ)


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就寝時は水の音的なやつのノイズマスキングを流しながら寝ることにした。この時点では若干、半信半疑だった。たしかに装着感は悪くないけれど、快眠できるのかしら…と。

 

床につき数十分が経った頃、ノイズマスキングを水の音的なやつからキャンプファイヤー(薪が燃える音)に変えた。あまり音が大きいと疲れそうなので、わりとボリュームを絞る。だから、パチパチというキャンプファイヤーの音越しに、加湿器のポコポコという音が少し聞こえている状態。「本当にこれで寝れるのかなぁ~~~~」ともう一度疑問を抱きながら、そのパチパチ音に集中する。

 

……数分後、なんとなく、「悪くないな」と思っている自分に気づく。遠くの方にまどろみが顔を覗かせている感じもした。もしや、この音に癒されている……???

ちょっと浮足立ちながら、また音に耳を傾けていると…………………いつの間にか寝ていた。

 

 

翌日―――昼頃起床。めちゃくちゃ寝た。

実はアラームを設定していたこともあり途中で一度起きたんだけど、「Tumble Dry(ドラム缶乾燥機が動いている音)」を流したら速攻寝た。それからもうずっと寝た。正直、こんなにぐっすり寝たのは久しぶりだったかもしれない。

 

寝ている間にたかいみみが取れることはなかった。ただ横向きで長時間寝ると、やはり耳栓が圧迫するので耳が少し痛くなる。(わたしはけっこう横向きで寝るので、余計に痛かった)なので、できれば仰向け寝が良いんだろうな。慣れればもう少しうまく使えそうなので、引き続き愛用していきたい。

 

 

そんなわけで、たかいみみは非常に優秀なアイテムだった。就寝時以外にも使えるので、実際この記事を書いている現在もわたしはたかいみみを装着している。そう、わたしは3万越えの耳栓をつけながらこの記事を書いているのだ…………

何だか商品レビューのようになってしまったけれど、このコロナがもたらした「音」問題を、たかいみみが救ってくれた!という素敵なお話を皆さんに届けたかったので、この記事を書けて非常に満足している。

 

生活様式、仕事様式が変わることで、周りの住民もみんなストレスを抱えているんだと思う。そうだと分かっていても、わたしにとって「音」は苦痛だったし、そのせいで住民たちを必要以上に恨んでしまいそうになった。でもそういう状況を、耳栓ひとつで緩和できるなら、しない手はない。(その代わり、いっぱい働かなければいけないけれど!!!!!!)

 

もし「音」で苦しんでいる方たちがいるなら、ぜひこのアイテムも視野に入れてみてください。お読みいただきありがとうございました。

◎1560円で5年保証(自然故障対応)にも入れます、わたしは入りました。

◎もし質問があればお気軽にコメントにどうぞ。

 

元狂暴キャットが亡くなった話

2020年12月、実家の猫が亡くなった。

この猫は、うちにとって”初めての猫”であり、ちょっと一癖ある猫だった。一癖とは――…一言でいうとこの猫は「狂暴」な性格の持ち主だったのである。いや、狂暴なんて生易しい言葉では足りない、”狂っていた”といっても大げさではないだろう。そんなクレイジーな元狂暴キャットがどんな風に生き、どんな最期を遂げたのか、ここに書き記

はじまりは15年前、2006年の夏のことだ。なにやら”ミィミィ”という聞き慣れぬ鳴き声が聞こえる……と母は思った。一体どこからだろう、と疑問を覚えながらも母は家事をこなしていた。けれど、ふとした瞬間に聞こえてくるあの”ミィミィ”は母の心をどんどん不安にさせる。

「もしかして、猫の鳴き声…?」

母は庭に出て辺りを見渡したが猫の姿は見つからない。しかし、鳴きやまない猫の声は悲痛で、必死な調子がある。

ほどなくして、その猫の鳴き声がどこから聞こえてくるのかが判明した。当時のわたしの実家は坂に面した場所に建てられた一戸建てで、庭から見下ろした場所に小さな貯水池のようなものがあった。まさに、その貯水池に猫がいたのである。

 

猫は溺れていた。何か木の板のようなものに掴まり、必死に鳴いていた。母はどうしていいか分からず様子を伺っていたが、近隣住民が助けるような様子はない。そして猫の鳴き声は一晩中続いた。

翌日、意を決して母は消防団に連絡。猫を救出してくれるよう要請した。消防団はすぐに駆けつけてくれて、団員一丸となって猫を救出してくれた。鳴いていたのは小さな仔猫だった。団員はその仔猫を母の手に渡しながら、笑顔でこういった。

「はい!猫ちゃん、助かってよかったですね!」

この瞬間、母は「あ、この仔猫はうちの猫にするしかないのだ」と思ったという。救出したいという一心で、その先のことを考えていなかった母。当たり前だが、消防団の仕事は猫を救出することで、その後の猫のケアまで引き受けてくれるわけではない。一時的にでもこの猫を保護するのは必然的に母の役目になる。

 

「どうしよう…」と母は思った。その理由はいくつかある。

まず当時、実家では大型犬・ゴールデンレトリーバーの女の子がいた。以前はラブラドールレトリーバーの男の子もおり、2匹で賑やかに暮らしていた時期もあった。そしてこの犬たちはなぜだか猫が嫌いで、見つけると追い回すという習性を持っていた。だから、一時的とはいえうちに猫が来るなんて言語道断。母は頭を悩ませていた。

さらに、うちでは猫を飼ったことがなかった。なんとなくうちはずっと”犬派”な雰囲気があり、母もわたしもさほど猫が好きではなかった。そんなヒガシノ家に猫なんかがやって来て大丈夫なのだろうか…?しかし、だからといってこの弱った仔猫を野に放してやるような鬼畜の所業は許されない。

 

とにかくやるしかない、と母は家にあった段ボールの中にタオルケットを敷き、まずは猫の寝床を作った。このときの母は「正直、一日も持たないだろうな」と思っていたそうだ。一日水浸しのまま鳴き続けた仔猫だ。相当に体も弱っているだろう。せめてこの小さな命を看取ってやろうと、そういう気持ちで猫を迎え入れることにしたそうだ。

そして、この小さな猫はわたしの部屋で一夜を過ごすことになる。少し変わった作りの家だったので、スペースや部屋の配置的にもわたしの部屋がちょうどよかったのだろう。当時のわたしは高校生で、この目が黒々とした小さな未知の生き物が少しだけ怖かったけれど、とりあえず一緒に寝ることにした。

 

わたしのベッドの脇に、猫の入った段ボールがある。ウトウトしていると、”ゴソッ……ゴソゴソッ”と身じろぎする音がして飛び起きた。段ボールを覗くと、猫がいない。慌ててベッドの下を覗くと、ベッドの下の壁に面した場所で猫が丸くなりながらこちらを見ている。

「……元気な猫だなぁ~」

当時のわたしはそんな呑気な感想を抱き、再びベッドに横になった。

 

――

―――

 

翌朝、猫は元気いっぱいだった。母は拍子抜けたという。この小さな猫は死んでしまうどころか、生命力を取り戻している。そうして、ヒガシノ家の人間たちは”なんとなく”猫を飼いはじめてしまったのである。

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(救出後、うちに来たときの写真と思われる)

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(儚げな様子の仔猫だった)

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(ちなみに犬とはすぐに仲良くなった)

さて、そんな奇跡の猫チャンがどうしてクレイジーな狂暴キャットになってしまったのか…。それはこの猫がうちに馴染みはじめて、しばらくした頃のことだった。

 

「痛い!」

わたしの腕に抱かれ、頭を撫でられ、気持ちよさそうに目を細めていた猫が、急に手に噛みついた。その豹変っぷりに家族の誰もが戸惑った。この猫による”噛みつき”は誰にでも平等に行なわれた。とにかく猫は急に噛みついた。何の前触れもなく、突然、ガブガブ…と。何だか普通な感じの噛みつき方じゃない気がした。突然スイッチが入ったようにガブリとやるのである。

 

さらに、この猫がうちに来てからというもの、衣類に変な穴が開くようになった。ティッシュがぐちゃぐちゃになり、破片が散乱していることもあった。もちろん、すべて猫の仕業である。

この猫は”衣類やティッシュを食べる”という変な癖があった。無心にくちゃくちゃと口を動かしているかと思えば、そこには穴の開いたTシャツ、ボロボロになったブラジャーの紐、ティッシュの破片が転がっているのである。これは間違いなく異常な行動であり、猫がいる部屋には衣類やティッシュを置かないようにという家族条例が設けられた。

 

これはあくまでわたしの推測なのだが、これらはすべて、あの貯水池に落ちたショックや強いストレスにより生まれた行動だったのではないかと思っている。反射的に、本能的に、人の手を噛み、衣類やティッシュを食べてしまう…うちに来たのはそんな一癖ある猫だった。

 

正直母は、頭の狂った可哀相な猫だと思っていたらしい。そう感じてしまうのも仕方ないだろう。しかし、なぜかわたしはその猫を一片たりとも可哀相とは思わず「めっちゃ噛んでくるが可愛いな!」「服ダメにされたけど可愛いな!」「よく分からんがとにかく可愛いな!!」と、どんなに噛まれても可愛い可愛いと抱き上げ続け、そういう異常行動をすべて猫の個性だと思い可愛がった。これまで一度も猫を飼ったことがなかったので、猫ってこういうものなのかもしれない…くらいにしか思っていなかったと思う。

 

そうやって猫を可愛がり続けると、年を追うにつれその変な癖は段々と落ち着いていった。

 

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(最初は全然噛まなかったんですよ)

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(でもね………)

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(触れるものすべてを噛むようになるし、)

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(目に入る衣服とティッシュすべてを食べるようになります)

ただ”衣類やティッシュを暴食する”という癖は落ち着いても、”突然噛む”という癖だけは直らなかった。しかしこれは癖が直らなかったというより、単にこの猫が気難しい性格の持ち主だったから…という可能性が非常に高い。

写真の通り、この猫は成長するにつれて上記のような仏頂面をするようになっていった。体に触れるのも、いいときと悪いときがあり、悪いときに触れると容赦なく鉄拳および噛みつきという制裁を加えられる。特に爪切りなんかいつも命がけだった。もう、本当~~~~~に難しい性格の猫だった。

 

だけど、一緒に暮らしていくと、段々と猫の気持ちや機嫌の変化が分かるようになってくる。そうやって猫の気持ちを汲んで接していけば、噛まれる回数も減るし、可愛いと思えるところも増えていく。こだわりが強かったり、変わったものを好む傾向もあるけれど、きっとそれもすべて個性なのだろう。そんな癖のある猫と暮らす生活はとても楽しかった。犬を含む家族みんなで可愛がった。(そうして”犬派”だと思っていたヒガシノ家は、その後2匹の保護猫を迎え入れるほど猫チャンにハマッていくのである)

 

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(よく眠る、動きの少ない猫でした)

 

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(ソファの背もたれの上も猫の定位置)

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(この格好、好きらしい)


――

―――

 

そんな一癖あるうちの猫は、2020年12月・15歳でこの世界を卒業することになった。夏に一度熱中症になった以外、怪我も病気をしなかった健康猫だったのだが、2020年夏に突然乳癌が発見される。すぐに手術をしたものの、その癌が今度は肺に移転。高齢猫ということもあり、病魔があっという間に猫を絡めとってしまった。

 

わたしを含むヒガシノ家の子どもたちはすでに独り立ちしており、実家でこの猫と暮らしているのは母のみ。どうすることが猫のためになるのか、一番猫のそばにいた母だからこそ、判断にとても悩んだ。

ただでさえストレスに弱い猫。最初に乳癌の手術をした際、猫はこのまま死んでしまうのではないかと思うほど衰弱した。そんな猫が、点滴や抗がん剤での治療に耐えられるかどうか…。いや、副作用の強いそういった治療を猫が本当に望んでいるのだろうか?それはただ苦痛な時間を増やすだけではないだろうか?母はそんな風に考え続けた。

 

そうして最終的に母は、猫の”緩和治療”を行なうことを選んだ。現状、肺にまで広がった病魔を根絶させることは不可能に等しく、さらに病院という慣れない環境での治療は猫に相当な苦痛をもたらす。であれば、痛みや苦しい時間を減らす緩和治療を行ない、一日でも長く大好きな家で過ごせるようにすることが、猫のためになるだろうと母は考えたのだ。

 

その結果、猫はこの病魔と闘ってちょうど100日後―――101日目にこの世での役目を終え、亡き父や犬が待つ次の世界へと旅立ったのである。

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(母が送ってくれた猫の”遺影”とのこと。10月末に撮影したそうだ)


なお、この猫にはちょっとした後日談がある。それは猫が亡くなり、母と共にペット葬儀を行なったときに聞いた話だったと思う。

 

貯水池に落ちたことをきっかけに、うちの家族の仲間入りを果たしたこの猫だったが、もともとは近所の野良猫一家の一員だった。猫の両親にあたる父猫・母猫は見目麗しい美猫だったそうで、母はそんな親猫たちの姿をたびたび庭で目撃していたそうだ。

 

猫が貯水池から生還し、ヒガシノ家の一員となった数日後―――母は窓の外に母猫の姿を見つける。母猫は窓の外からじっとうちの中を見ており、しばらくすると帰っていったそうだ。彼女はヒガシノ家に自分の子が引き取られたことを理解していた。そして最後に一度だけ、子の姿を見に来たのだろう。母によると、それからその母猫の姿を見ることはなかったという。

 

この猫には、そんな小さなドラマもあったのだ。

今猫は、幼少期に生き別れた親猫たちと再会を果たしているかもしれない。そして、ヒガシノ家での暮らしのこと、特にお気に入りだったローチェアの上での寝心地の話なんかをしているんじゃないだろうか。

そんな可愛い可愛い元狂暴キャットがこの15年を駆け抜けたお話でした。

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(写真が嫌いなので、カメラを向けると耳が倒れる)

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(しつこく写真を撮ったので、このあとパンチされます)

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(おつとめご苦労様でした!)