ヒガシノメーコ記

ヒガシノメーコのエッセイや漫画。【毎週 月曜日(イラスト・漫画)】と【隔週 土曜日(エッセイ)】を更新。

『限界』について

 

SNSやニュースを通して、みんなの『限界』が伝わってくる。

我慢ばかりを強いられる生活に対し、国が出すとんちんかんな措置や命令。一方でこの状況に慣れてしまったことによる弛緩した感染予防意識や反発意識、それに伴う行動も随所で見られる。

本当に誰もが『限界』なんだと思わざるを得ない。

 

コロナがはじまってから、わたしはめっきり音楽活動をしなくなってしまった。その理由はふたつある。

 

まずは経済的な面。

コロナの影響でわたしの仕事の単価はガクリと下がった。収入の安定しないフリーランスとして仕事をしている身なのでこれは手ひどい痛手だ。なぜなら、これまでと同じ量の仕事をしても、実際に得られる報酬はこれまでの半分ほど。正直日々の生活をすることで精一杯なのである。

 

次に気持ち的な面。

感染予防の一番の対策は飛沫防止……つまり人と会わないことである。バンド活動をするにあたって、人と接触することは避けられない。加えてわたしはベースボーカルであるため、歌うことにより、どうしても飛沫感染のリスクを周りに与える(与えられる)可能性が高くなるだろう。

もちろん、ライブハウスなどでは感染対策に非常に力を入れていることは知っている。今や無観客ライブも主流になった。そのうえでも、わたしはやはり可能であればリスクが低い行動を取りたいと思ってしまう。

 

それは自分のためでもあり、周りのためだ。わたしには高齢の母親がいる。幼い姪っ子がいる。今は会う頻度を抑えているけれど、いざというときに駆けつけられる状態でいたいし、その”いざ”というときのためにも、わたし自身が家族たちに安心してもらえる状態でありたいと思っていた。たった一回の接触で家族の誰かを危険にさらしてしまったら…と思うと、やはりバンド活動に踏み出せなかった。

 

また、安全に手放しで活動できない状況の中で、ビクビクしながら音楽をするのはやっぱり嫌だった。きっと楽しめないと思った。こういう感覚は人によるとは思うのだけど、少なくともわたしは今の状況で音楽を楽しむのは難しい。

※現状、ワクチン接種完了や、よりたしかな治療レギュレーションが確立されることが、”安心して活動できる”というわたしの中の指標です。

 

―――こういった背景もあって、わたしの所属するバンドは今活動できていない状況にあるし、こういう状況にしている大きな要因はわたしにあるだろう。

メンバーの中には音楽を仕事にしている者もいるので、生きていくために当然そういった場に出なければならないことも多い。だから、わたしと比べれば安全に活動を行なう自信もあるだろうし、考え方も180度違っているのだと思う。

かたやわたしは一日家に籠って仕事をしているような人間だ。家族を除けば人ともほとんど会わない。そんな人間からすると、安全に音楽活動を行なうというのは非常にハードルが高く、(上記のような理由で)気持ち的な不安はどうしても除けないのであった。

 

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今年に入り、わたしは友人とリモートで作った弾き語り音源をお客さんたちと視聴する、という配信を行なった。(バンドとはまったく別の活動である)これを皮切りに、2021年からはやはりできる範囲で音楽を頑張ろうと思い直したのだ。バンドメンバーたちには長いこと音源づくりを待たせてしまっており、かなり申し訳ない思いだったが、4月末に楽器だけを合わせるためにスタジオに入ろうという予定でもいた。

 

しかし、4月に入ると変異株の著しい蔓延やまん延防止等重点措置の実施などにより、一気に旗色が悪くなった。わたしはスタジオ練習の中止を提案、替わりにそれぞれが録音した音源を組み合わせ音源制作をしようと提案した。メンバーたちはその提案を受け入れてくれたが、やはりお互いの考え方や意識が大きく異なっていることもあり、その日の話し合いはお世辞にも気持ちの良い空気とは言えなかった。

 

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話題は少し変わり、先日SNS「今活動しているバンドマンたちは、ライブハウスを助けている。素晴らしい」というようなツイートを見かけた。(細かいところまでは覚えていないが、大体このような内容)たしかにその通りだと思う。しかし一方で、わたしが要因でうちのバンドはこの「今活動しているバンドマンたち」にカウントされておらず、そしてSNS上では限られた範囲の中で音楽活動を行なう人たちの様子やお客さんの反応が流れ……たとえ自分が原因だとしても、音楽が行なわれている現場と自分との乖離がどんどん生まれていくようで、非常にぐったりとしてしまった。

 

わたしはわたしで『限界』を感じているようである。

 

ただひとつ言えるのは、この話の中で誰が正しく、誰が悪いということはない。それぞれ置かれている状況も人間性も、時間を共にする仲間たちも、なにひとつ違うのだから、相応の生き方や活動の仕方があって当然だ。しかしその”違い”によってお互いに神経をすり減らしてしまう。遠慮し合っても、感情をぶつけ合っても、同じ方向を向けないことがどこか後ろめたさなどに繋がってしまうのだ。だからわたしは今すこし疲れている。そしてこの記事をまとめながら、少しSNSから離れてみる生活もいいかもな、と思ったところだ。

 

要領を得ない話ではあったが、現状わたしが感じている『限界』について発表させてもらった。とにかくわたしはまた、たくさんの大切な人たちと楽しく笑顔で再会したい。そのために、わたしができる範囲のことを、できる限りやり続けたい。

 

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